移植後3カ月以内は、拒絶反応や感染症などの合併症が起こり易い時期ですので、それらを早期に発見するために、種々の検査を行います。
移植後行う検査には、検血、生化学的検査(腎、肝及び止血検査)、シクロスポリン血中濃度、胸部レントゲン撮影、心電図、心エコー検査、喀痰・尿の細菌培養検査、右心カテーテル検査、心筋生検、冠動脈造影検査などがあります。
後に詳しく示しますが、このような検査をスケジュールに併せて定期的に行います。但し、拒絶反応や感染症が疑われたときには、検査の回数が増えることがあります。心筋生検については、前々章を参照してください。
心臓の回りを取り巻いて、心臓の筋肉に栄養や酸素を供給する血管を冠状動脈といいます。冠状動脈造影検査とは、大腿動脈からカテーテルを挿入して、左右1本ずつある冠状動脈に造影剤を注入して、冠動脈内超音波検査とは、大腿動脈から超音波検査用のカテーテルを挿入して、冠状動脈に狭窄がないかどうかを調べる検査です。一般のカテール検査同様、入院して行う検査です。
心移植後6カ月を過ぎると、この冠状動脈に動脈硬化様の病変が起こってきて、ひどくなると心筋に血液が十分に行かなくなり心不全に陥ってしまうことがあります。この病気は慢性拒絶反応と呼ばれていて、移植後5年で20~30%の人がかかると言われています。ただ原因は判っておらず、予防法も確実な治療法もありません。普通、冠状動脈に動脈硬化がおこって狭くなりますと、前胸部痛、前胸部圧迫感といった痛み(狭心痛)が起こりますが、移植された心臓には神経がつながっていないので、冠状動脈に著しい狭窄が起こっても、胸痛(狭心痛)を感じません。そのため、たとえ症状のない場合でも、冠状動脈に狭窄がないという保証がないので、これを調べる必要があります。
慢性拒絶反応は心臓移植後6カ月以降に起こってきますので、移植後3、6ヵ月目および1年後以降は1年に1回の割合で行います。
心臓移植を受けると、拒絶反応や感染症など、移植前とはちがった病気に罹患し易くなり、ちょっとした異常でも早期に発見する必要があります。従って、定期的な検査や診察以外に、患者さん自身がふだん自分自身の健康チェックを行うことにより、早期に異常を発見し、治療を開始することができます。
自分自身で行う健康チェックには、血圧、脈拍数、体重、体温の測定があります。これらの結果は、自分自身で記録用紙(「健康管理手帳」)に記入し、外来診察時に担当医に見せます。担当医が患者さんの健康状態を知るために非常に役立ちますし、自分自身でも変化が起きたことは一目で解りますので、異常の早期発見が可能になります。
免疫抑制剤であるプレドニンやシクロスポリンには、血圧を上昇させる副作用があり、しばしば降圧剤を服薬することになります。また、高血圧の予防は、慢性拒絶反応の予防にもなるといわれていますので、日々の血圧を知っておく必要があります。
移植された心臓には交感神経・副交感神経系がつながっていませんので、脈拍を瞬時に調整する働きや、不必要時に脈拍を抑える働きがにぶくなっています。したがって、移植後は静かにしている時に正常人よりも脈が早くなることがあります。た、拒絶反応時には脈が不整になることがあります。インデラルやジギタリス製剤を服薬すると脈拍が少なくなります。自分自身の脈拍数の変動を知るために1日1~2回測定し、記録するようにします。
拒絶反応や他の原因で心機能が低下すると、体重が増えたり、浮腫が出たりします。したがって、毎日決まった時間に体重を測り(できれば朝食前)、体重増加が多いときには、担当医に連絡するようにします。また、肥満や高脂血症は慢性拒絶反応を引き起こし易い因子であるといわれていますので、肥満とならないように食生活にも注意が必要です。
拒絶反応や感染症にかかったときには、発熱を伴うことがあります。軽い風邪でも、免疫抑制剤を飲んでいる移植患者の場合には重症になることがありますので、7℃以上の発熱がみられた場合には担当医に連絡するようにします。